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2023.11.02

琴花の紡ぎ

 東洋のその町では「琴花」という花畑が広がっていました。


 琴花では四季折々の花々が咲き誇り、自然の美しさで多くの人々を魅了しました。この花畑は、まるで絵のように美しく、人々はそれを絵に描き、そこで歌を歌い、昼寝をしました。花畑を訪れた全ての人たちにとって、溢れんばかりの花の美と癒しを惜しみなく恵んでくれる、琴花はそんな温かく慈悲深い場所でありました。


 窓から差し込む朝の太陽の光が、足が不自由で歩くことができない老女の部屋をやさしく照らしています。今日もまた、新しい一日の始まりが告げられました。琴花に住む老女は80歳を超えても、毎朝、毎朝、新しい冒険が待っていることを信じては、胸を膨らませていました。


 老女の母の名前は、琴花の片隅にある小さな白い墓碑に刻まれていました。老女は琴花の鮮やかな色を見るたびに、白い墓碑を眼にしては、心の中で母と戯れました。亡き母から学んだたくさんの琴花の思い出は、いつの時にも老女の心に深く刻まれていました。


 その日も、感謝の気持ちを胸に抱きながら、老女は眼を覚ましました。老女の眼にはたくさんの涙が溢れていました。涼しげな朝方、老女は琴花で久しぶりに母の夢を見たのです。今は歩くことが出来なくなった足取りは軽く、老女は琴花を端から端まで思いっきり走っています。母は遠くからそんな老女のことを微笑ましく見守ります。


 清らかにそよぐ外の風が、花畑の花々を優しく揺らしました。老女の中で、母と遊んだ彼女の心は高鳴りを押さえることができませんでした。


 「今朝も、明日も、これからも、とても素敵な日になるだろう」


 老女はそう呟き、琴花の片隅にある母の墓碑を、ぼんやり遠くから眺めました。琴花の白い花々が優雅に咲き誇り、母の周りをやさしく包み込んでいました。


 老女の眼からは、またたくさんの優しい涙が溢れてきました。




                                                                                                                                        written by Joji George Imataka

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