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2023.12.02

対岸の戦士

 遠い国の小さな村が対岸の国の戦地に巻き込まれました。その村には、戦争の最中に生まれたアキシスという少年がいました。少年の父は村を守るため戦士になり戦いました。しかしアキシスの父は、戦争が猛威を振るう最中に命を落とし、母は戦火に被災し、彼は孤児として育ちました。


 幼い時、アキシスは両親の死に復讐することを誓いました。彼は強靭な戦士になる厳しい訓練を受け、闘志と意志を鍛え続けました。やがて少年は大人になり、銃と剣を持ち、戦地に赴きました。


 アキシスは幾多の戦いに勝利し、多くの部下と強大な権力を手にしました。しかし月日とともに心に大きな葛藤が生じたのです。

 

 彼は大地の神に問いました。「私は多くの軍勢を率いる長の身となった。だが、どれだけ多くの敵を殺し、領地を奪い復讐しても、父も母も戻りやしない…」


 大地の神が答えました。「海の向こうの対岸の国を目指しなさい」


 アキシスは神の教えに従い、大きな船を略奪し、軍勢を率いて対岸の国へ向かいました。


 数週後、船は向こう岸へ辿り着きました。対岸の国もまた、戦いで街は破壊され瓦礫の山と化し、人々は悲しみと苦しみに苛まれていました。すると瓦礫の中から、一人の若者がアキシスに近づいてきました。


 若者は激しい口調で言いました。「お前は向こう岸の国の戦士、なぜ、どうしてここに来た」


 アキシスは答えました。「私は、この地に両親の死への復讐に来た。しかし、ここで見た光景は、私の村と同じだ。私の軍勢より強い戦隊も兵士もいない。私は何のためにここにきたのか」


 若者は続けました。「私の両親はお前たちのような軍勢を率いた向こう岸の獣に殺された。私は戦火の孤児として育ったこの土地の戦士だ。私たちの領土に踏み入る者は、どんな身分のものでも、誰一人として許さない」


 アキシスは若者の眼を見ました。彼の目から強い怒りの感情が鋭い閃光とともにアキシスに放たれました。そして若者の剣がアキシスの喉元を鋭くかすめました。その剣の刃が自分の喉元に触れた瞬間、アキシスは若者に対して怒りや敵意を示すのではなく、穏やかな声で言いました。


 「若者よ。私はようやく理解した。あなたの怒り、そして戦士としての誇り、それらは尊重すべきものだ。私は父と母の死に復讐するつもりでこの地に来たが、あなたと敵対するつもりはない…」


 その言葉に若者は驚きを隠せなかったが、決して剣を下ろすことはなかった。




                                                 

                                        written by Joji George Imatakapainted by 

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