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2024.01.28

三つの種

 晴れやかな日曜の朝、広い大地の左と手前と右の方に、小さな3つの種が蒔かれました。3つの種は愛情豊かな土壌に包まれ、地熱の温かさと、降りそそぐ雫を糧に、いつか訪れる外の世界を静かに待ち続けました。


 彼らの芽吹きは、生命の奇跡の始まりでした。左に蒔かれた種、手前に蒔かれた種、右に蒔かれた種は、夢中になって陽の光を浴び、雨粒の恵みを喜びました。やがて成長して幹になると、彼らは共に遊び、語り合い、無垢な友情を紡いでは、新しい世界を冒険しました。


 それぞれの幹に若葉が息吹き始めたころ、違う場所で育った3つの種は、自分の個性と他との違いを少しずつ気にするようになりました。心の中で互いを認める一方で、ときに激しく争う場面もありました。

 

 やがて月日が流れて、種たちに花を咲かせる季節が訪れました。


 左に蒔かれた種は、成功と承認を追求しました。色鮮やかな彼の花はいつも周囲を賑わせましたが、成功の日々は長くは続きませんでした。


 手前に蒔かれた種は美しい花を華麗に咲かせ、たくさんの注目を浴びました。しかし同時に、その美しさは孤独を抱える代償にもなりました。

 

 右に蒔かれた種は悩んだ末に謙虚な花を咲かせ、皆との調和を築きました。深く内なる美を秘めた彼の花びらの裏側には、いくつもの辛く耐え難い生傷が刻まれていました。


 言葉が育む魔法の一つに、”置かれた場所で咲きなさい” という台詞があります。この言葉には、自分自身の存在と価値を俯瞰的に理解し、他者への共感を大切にするという、尊い智慧が内包されているのです。

 

 3つの種はそれぞれの道を歩み、思い思いの花を咲かせた暁に、静かに儚く、枯れていきました。

 

 いつかその地に、自らの遺志を引き継ぐ、新たな種が蒔かれる日を夢に見ながら…



                                                 

                                     written by Joji George Imataka

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